心不全治療におけるシンプルGDMTスコアとは?

はじめに

心不全は、心臓が十分な血液を体内に送り出せない状態であり、現代社会における重要な医療課題です。その治療において、薬物療法は重要な役割を担っており、近年ではエビデンスに基づいた治療ガイドラインが策定され、より効果的な治療が可能となっています。

本記事では、心不全の薬物治療における標準的な治療法である「GDMT」と、その導入状況を評価するための指標である「シンプルGDMTスコア」について、詳しく解説します。

心不全の薬物治療:シンプルGDMTスコアとは

GDMT(guideline-directed medical therapy)とは、心不全の治療ガイドラインに沿った薬物治療のことであり、心不全の予後改善に最も効果的な治療法として知られています。心不全(HFrEF)に対するGDMTの中心となる薬剤は、「ファンタスティック4」と呼ばれる4つの薬剤群です。
ファンタスティック4とはRAS阻害薬(+ARNI)、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の4つです。

  • レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬
    サクビトリルバルサルタン(ARNI)
    ▼ACE阻害薬
    (エナラプリル、イミダプリル、ペリンドプリル、リシノプリルetc…)
    ▼ARB
    (アジルサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタンetc…)
    ▼ARNI(=サクビトリルバルサルタン)
    心不全の死亡リスクと心血管系イベントの発生リスクを低減します。
  • β遮断薬
    ビソプロロール
    カルベジロール
    心拍数を低下させ、心収縮力を高めることで、心臓への負担を軽減します。
  • ミネラルコルチコイド受容体阻害薬(MRA)
    スピロノラクトン
    エプレレノン
    エセキサレノン(ミネブロ)
    フィネレノン(ケレンディア)
    体内のナトリウムと水を排泄し、心臓への負担を軽減します。ほかの利尿薬と異なりカリウムを保持します。
  • SGLT2阻害薬
    タパグリフロジン(フォシーガ)
    エンパグリフロジン(ジャディアンス)
    腎臓での糖の再吸収を抑制し、尿量を増やすことで、心臓への負担を軽減します。

これらの薬剤は、それぞれ異なる作用機序で心不全の症状を改善し、これらを組み合わせて使うことで予後を改善することが示されています。

シンプルGDMTスコア(SGS)とは

シンプルGDMTスコア(SGS)は、患者がどの程度のGDMTを受けているかを簡単に評価するための指標です。上記の4つの薬剤群の投与状況と投与量に基づいて、0点から9点までのスコアが算出されます。スコアが高いほど、よりGDMTを受けていることを示します。5点以上の場合生命予後が改善するということが分かっています。

SGSの計算方法

各薬剤群の投与状況に応じて点が与えられ、それらの合計がSGSとなります。
例えば、ARNI、β遮断薬(最大量の半量以上)、MRA、SGLT2阻害薬を全て投与している場合は、9点となります。

薬剤投与状況
RAS阻害薬なし0
<最大量の50%1
≧最大量の50%2
ARNI(用量は問わない)3
β遮断薬なし0
<最大量の50%1
≧最大量の50%2
MRAなし2
あり0
SGLT2阻害薬なし2
あり0
合計0~9点
引用:https://images.app.goo.gl/rzCMYBzyt8BFgj2k9

SGSの意義

▼GDMT導入状況の把握
SGSは、個々の患者がどの程度のGDMTを受けているかを簡単に把握できるため、治療の現状を把握し、改善点を見つける上で有用です。

▼予後予測
SGSは、心不全患者の予後予測にも利用できます。一般的に、SGSが高い患者ほど予後が良い傾向にあります。

▼治療目標の設定
SGSは、治療目標の設定にも役立ちます。例えば、SGSが低い患者に対しては、GDMTの導入や増量を検討することが考えられます。

薬剤師の役割

薬剤師は、心不全患者に対する薬物療法において、非常に重要な役割を担っています。

▼薬物療法の指導
患者に対して、薬剤の飲み方、副作用、注意点などを丁寧に説明し、服薬アドヒアランスの向上に努めます。またSGSを使用し客観的な治療状況評価を行い医師や他職種、患者やその家族に状況を伝え適切な治療ができるように努めることが大切です。

▼薬物相互作用のチェック
患者が服用している他の薬剤との相互作用をチェックし、安全な薬物療法を確保します。SGSで5点以上を目指すように治療を行うと4種類以上薬を服用することが多々できてきます。ほかの薬剤や患者の状態などから適切ではない薬剤の処方があるかもしれません。

▼副作用や心不全悪化のモニタリング
患者が副作用を経験した場合には、その原因を究明し、適切な対応を行います。また定期的の患者の状態を服薬フォローアップなどを行い医師などに情報提供することで適切な治療が行えます。心不全のレッドカード、イエローカードについて学んでおくと情報提供や受診干渉が適切に行えます。

▼医療チームとの連携
医師、看護師など、他の医療従事者と連携し、患者に最適な治療を提供します。薬剤情報を詳しく知っているのは医師や薬剤師だけの可能性が高いです。他の職種にも定期的に情報交換することで薬剤師が知らないことや他職種が知らないことを共有できることでより良いケアを行っていくことができます。

まとめ

心不全の薬物治療において、GDMTは最も効果的な治療法として位置づけられています。SGSは、GDMTの導入状況を簡単に評価できる指標であり、薬剤師を含む医療従事者にとって、患者へのより良い医療提供に繋がるツールとなります。

薬剤師は、心不全患者に対して、薬物療法に関する専門知識を活かし、積極的に関わっていくことが求められます。

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